ざらつく頁の感触を 確かめる杪夏の夜
指先でなぞる、なぞる、なぞるだけの逢瀬
前世も来世も今世にも さして興味はないの
私の居場所はここじゃない別世界の文脈上
綴じられた数センチの紙束が
なにより恋しい
手のひらに 広げる逃避行
あなたがいる たったそれだけの世界
どんな奇跡でも叶えられない
それでも私は 恋をしてしまった
この想いに嘘はつけない
つけない つけない
つきたくはない 届くなら もう
なにも、厭わない
夏炉冬扇の世迷い言と 嘲う病架の世
爪先でたどる、たどる、たどるだけの俗世
妄想も創造も現実も さして違いはないよ
所詮は知覚が脳内を走る一瞬の電気信号だ
綴られた鉤括弧の声は
白昼夢のように
手のひらを すり抜けて消えた
あなたがいない たったそれだけの世界
どんな感情も虚しいんだ
いつでも私はこの世で一人きり
分かりあえない だからいらない
いらない いらない
いるはずもない こんな世界 もう
なにも、意味はない
今ならあなたのいる世界にいける気がした
両の目をとじて、とじて、とじて、あけて、
そして、
あなたといる たったそれだけの願い
どんな奇跡でもたどり着けない
それでも私は 恋をしてしまった
寄せる想いに偽物はない
会いたい、会いたい、会いたい…
それだけで
あなたがいる たったそれだけの世界
この物語以外にありえない
それなら私は 俗世にさようなら
忘れるなんてできない
できない できない できない
できる訳ない 叶うなら もう
なにも、厭わない